今回は、資産家のお話です。
資産家であっても、納税資金に困る場合があります。
なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか。
そのような事例を紹介し、困った事態に対してどうすればよいか考えていきます。
資産はある
先祖代々の地主であるAさん(父)は、自身の相続により大事な土地が失われてしまうことを恐れていました。
そこで、銀行から借入れを行い、所有する土地に賃貸物件を建てました。
そのようにして、大事な土地を減らすことなく次世代に承継できるよう対策を講じていました。
Aさんの代で建てた賃貸物件の数はアパート3棟、マンション1棟にのぼります。
お金はない
平成30年、Aさんより先にその妻が死亡し、その後、妻を追うようにAさんも亡くなりました。
相続人は長女Bさん、長男Cさん、二女Dさんの3名でした。
Aさんの相続税評価額は債務控除後、5億円ありました。
相続税総額は1億2,980万円でした。
Aさんは多額の資産があります。
ところが、Aさんの財産には現金や金融資産がほとんどありませんでした。
財産のほとんどが不動産であったため、相続税の納税資金を作る必要がありました。
しかし、自宅以外の不動産にはすべて借入金の担保が付されていました。
残債も残っていたため、売却できたとしてもその代金を満額納税資金に充てられるわけではありません。
このような状況の中、相続税申告期限までに納税資金を作るのは大変な苦労です。
結局、遺された子供たちは賃貸物件を安く売却せざるを得ませんでした。
「先祖代々の土地を減らさない」という故人の大義を果たすことはできなかったのです。
今回のまとめ
そして、Aさんは相続税の節税ばかりに目が行き、納税資金のことを考えていなかった、という事例です。
また、地主は、「うちの土地は良い土地だから、いつでも高く売れる」ということを思いがちです。
相続対策は相続税だけの問題ではありません。
遺産分割対策、相続税納税資金の確保、相続税の負担軽減、この3つをバランスよく講じていくことが必要です。
特に、「資産はあるが、お金がない」土地持ちの資産家の相続対策は、相続税納税資金の確保により注意を払う必要があります。
今回は、納税資金対策がおざなりになり、それから先祖代々の土地を手放さざるを得なくなりました。
節税ばかりに意識が向いているケースは、往々にしてこのようなことが多くあります。
次回はこの事例をもとに、どうすれば良かったのかを取り上げます。