普段発生確率は低くても、実際にその局面に遭遇すると、経験が少ないだけにとても困ってしまうものです。
前回は法定要件に不備がある遺言書の場合を取り上げました。
今回は、法定要件に不備はないものの、遺留分について侵害がある場合をとりあげます。
遺留分の指定
法的に有効な遺言書による遺産の承継の指定について、相続人は原則としてそれに従う義務があります。
しかし、その内容が極端なものであったりした場合どうでしょうか。
極端に特定の相続人に手厚く相続させるものだったり、などです。
著しく不公平ですよね。
そこで、第三者への遺贈である場合は、他の相続人は遺留分に相当する額を受ける権利があります。
その権利は、以下のようなものです。
・直系尊属のみが相続人である場合は、被相続人の財産の3分の1
・上記以外の場合は被相続人の2分の1
・兄弟姉妹には遺留分はない
金融機関はどうする?
遺留分を侵害する内容の遺言書が提示された場合、金融機関はどう対応するのでしょうか。
遺言書の内容によって、被相続人の預金債権を取得し、払戻し請求をした場合を考えます。
遺留分の権利を有する相続人は、遺留分減殺請求権を行使することができます。
相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、その請求権は時効により消滅します。
また、相続開始の時から10年を経過したときも、請求権は消滅します。
そして、減殺請求する相手方は遺言書による指定によって利益を受けた人です。
つまり、単に遺言者から預金を受け入れていた金融機関は、減殺請求を受ける立場にはありません。
特段の事情がなければ、遺言内容が他の相続人に対する遺留分の侵害があったとしても、遺言内容にしたがって預金払戻しに応じればよいことになります。
ただし、預金払戻し手続きの前に、遺留分を侵害された相続人からSTOPがかかったときは別です。
「遺留分減殺請求権を行使する予定であり、遺留分に相当する金額の預金は払い戻さず留保してほしい」との申し出の場合などです。
遺留分減殺請求権は相続人に当然認められる権利です。
また、権利行使の対象として、預金を明示している事情を判断することになります。
そのうえで、払い戻そうとしている遺言の受益者となる相続人の了解を得て、申出内容に該当する金額については、払戻しを留保することになるでしょう。
あとは、当事者間での問題解決に委ねる、とされています。
今回のまとめ
遺留分の侵害がある遺言書の場合をとりあげました。
法定要件不備の場合とは異なり、手続きは進むことになるでしょう。
ただ、遺留分減殺請求権を行使する、としてあらかじめ払戻しを留保する申し出がなされることもあります。
そのようなとき、当事者間で解決を図ることになります。