相続の手続き相続対策

相続時精算課税制度とは|メリット・デメリットと検討時の注意点を解説」

ひとくちに「贈与」といっても、その方法が2種類あるのはご存知ですか?親世代が子・孫の世代に生前贈与を行う場合、暦年贈与と共に選択できるのが『相続時精算課税制度』です。暦年贈与より多額の金額を贈与できる反面、理解しておく注意事項が多い方法でもあります。

今回は、『相続時課税制度』の魅力と、検討する際に知っておきたい注意ポイントを解説します。

 

相続時精算課税制度とは

60歳以上の親・祖父母が20歳以上の子供や孫に資産を贈与する際に利用できるのが『相続時精算課税制度』です。『早いうちに財産を贈与することで消費を促す』ことを目的としており、生前贈与を行う場合に『2,500万円まで』を非課税で贈与できます。

暦年贈与とは

『相続精算課税制度』と並び、生前贈与に利用できる制度に『暦年贈与』があります。こちらは『1月1日から12月31日までに贈与を行い、贈与額が110万円以下であれば非課税になる』制度のことです。
110万円を超えたお金については、10~55%の贈与税が発生します。1年の非課税枠が110万円のため、年をまたげば、また非課税枠が復活します。一般的な『贈与』は、この暦年贈与のイメージが強いでしょう。
特に申請をしない場合、この暦年贈与が適用されることになります。非課税額は110万円と多くないものの、毎年110万円の非課税枠を利用できるのが魅力です。課税されない限度内で贈与する限り、申告も必要ありません。

相続時精算課税の計算方法

贈与税の合計額が2,500万円を超えた場合、超えた分に対して「一律20%の贈与税」が発生します。ただし、支払った贈与税については相続税から支払った贈与税を差し引くことが可能です。

計算式

【課税価格-特別控除額】×税率
具体例として令和元年~3年にかけて、 1,200万円ずつ贈与(合計3,600万円)したと仮定して計算してみます。
2,500万円を超えた『1,100万円』に対して20%課税されるため、計算式は以下の通りとなります。
(1,200万円×3)-2,500万円×0.2=220万円

具体例

20歳以上の子供が新築を建てたいと計画した際、60歳以上の父から2,500万円を受け取りたいと考えています。暦年贈与の場合、810万5千円の贈与税がかかります。これが相続時精算課税制度であれば、贈与税を発生させずに全額を贈与可能です。
2,500万円に達したあとは20%で課税されるため、翌年に100万円追加で贈与した場合は20万円が贈与税となります。
将来父親が死んだ場合、相続財産に2,600万円が加算されて相続税が計算されることになります。ただし、贈与税としてすでに納めた20万円は控除の対象です。

相続時精算課税の魅力

非課税の金額が大きいもっとも大きな魅力は、非課税額が2,500万円と大きい点です。多大な金額を贈与する際に、贈与税を気にせずに子に財産を渡すことができます。
また、2,500万円の非課税限度額に達するまでは、何回贈与しても贈与税がかかりません。超えた分は20%の税率がかかるものの、暦年課税と比べたら安い点も魅力です。

若いうちに多額の資産を受け取ることが可能

上手に活用できれば、まとまった金額を子供が若いうちに贈与することができます。お金を必要としているタイミングで自由に使えるようになるのは、経済を回すためにも理想的と言えるでしょう。
数千万円もの金額を暦年課税で受け取ろうと思うと、10年~20年はかかってしまうでしょう。スムーズに移転できることで、トータルでの手間を減らせる可能性があるのです。

被相続人の意思を明確にすることができる

相続というのは、「争続」ともいわれるように、非常にモメごとやトラブルが多いものです。遺言が見つからなかったばかりに、遺産分割協議が難航することも珍しくありません。被相続人が生きているうちに資産の受取人を明確にしておくことで、これらの争いを回避することができるのです。

価値が上がる資産を渡すことで節税につながる

この制度を利用すれば「株式」「投資信託」等の有価証券を子供に渡すこともできます。自分が死んだ後まで渡すのを待っていると『価値が上がってしまう』ものの場合、先に渡すことで相続税が多く発生するのを防ぐことも可能です。
とはいえ、有価証券の価値が上がるか下がるかの判断は難しいもので、一概に利点とは言えないかも知れません。早くに渡したものの価値が暴落した場合は、逆に損をしてしまうことになります。

相続時精算課税の欠点

非課税額が大きい魅力がある相続時精算課税制度ですが、状況次第で暦年贈与の方が良いケースもあります。以下の欠点を理解した上で、暦年贈与より有効な場合に限って利用することが重要です。
【相続時精算課税制度の欠点】
  • 暦年贈与に再変更できない
  • 贈与金額の申告が必要になる
  • 小規模宅地等の特例が使えなくなる

 

暦年贈与に変更できない

相続時精算課税制度に変更するためには、『相続時精算課税制度選択届書』を提出します。この書類を一度提出すると、二度と元には戻せません。110万円の非課税枠が一生使えなくなってしまいます。

贈与金額の申告が必要

相続時精算課税制度に切り替える際には手続きが必要です。手続きなしで非課税の適用がある暦年贈与に比べて手間がかかります。また、納税額が無かったとしても贈与税の申告をする必要があります。

小規模宅地等の特例が使えない

「小規模宅地等の特例」とは、一定の条件を満たす土地を相続した場合に最大80%減額になる制度のことです。相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、これが適用できなくなります。80%の減税が無くなることで相続時精算課税の魅力が大きく損なわれます。
土地の生前贈与が発生する可能性がある場合は、特に注意して選択する必要があるでしょう。

相続時精算課税制度の注意ポイント

節税のための制度ではない

相続時精算課税制度を利用することで、2,500万円を超えるまでは何回でも非課税での贈与ができます。ただし、非課税だった分は将来の相続時に相続税に加算されます。つまり「贈与税が免除」になるわけではなく、あくまでも先送りされるだけです。おトクに見えて、節税の効果は全くない点が最大の注意事項と言えます。
ただし、悪いことばかりではありません。税金の支払いが先送りされるということは、その分だけお金を用意する猶予が与えられたとも言えるのです。被相続人の死後まで税金の支払いを実質的に待ってもらうことができるのは、この制度の隠れた魅力です。

相続放棄しても相続税の納付は必要

ここまで解説をさせて頂いた中で「相続放棄すれば相続税は発生しないのでは?」と考えられた方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、仮に相続放棄をしても相続時精算課税制度分の納税は逃れることはできません。
通常、『相続放棄』は最初から相続人でなかったとみなされます。ただし、この制度を使って生前贈与を受けた分は『遺贈』されたとみなされるため、生前贈与分の相続税は納めなければいけません。

相続時精算課税制度が役に立つケース

全く活用ことができないのかというと、そんなことはありません。相続時に贈与税が先送りになるということは、『相続税がかからない人』であればフル活用できるということです。
例えば、2,600万円の財産を持っている母が息子に1,500万円を生前贈与したいとします。暦年贈与の贈与税額は366万円にもなり、簡単に贈与することはできません。
ここで登場するのが『相続時精算課税制度』です。1,500万円の高額な贈与であっても、税金を取られずに全額贈与できます。
亡くなった時の財産は贈与した1,500万円をのぞいて1,100万円です。相続時精算課税制度で贈与した1,500万円を加算しても2,600万円であり、相続税の基礎控除(3,000万円)に収まっています。このケースであれば相続税がかからないため、非課税のメリットを100%活かすことができます。
なお、相続税の基礎控除額は『3,000万円+相続人の人数×600万円』です。この範囲に収まる限り、相続時精算課税制度は有効に利用できます。

手続きに必要な書類

制度を利用するにあたって、以下の書類が必要になります。選択届出書については、国税庁のホームページで入手が可能です。
【必要書類】
  • 贈与税の申告書(別表1・2が必要)
  • 相続税精算課税選択届出書
  • 住民票の写し
  • 登記事項証明書

まとめ

今回は、相続時精算課税制度の魅力・注意ポイントを紹介しました。
あくまで贈与税の先送りのための制度であり、節税には活用できない点は理解が必要です。元の暦年贈与にすることは不可能であり、今後の手間を差し引いても最良の手段である場合のみ選択することをおすすめします。税理士など、税金の専門家の力を借りるほうが確実です。
ご自身が相続する金額が基礎控除内に収まるかどうかを基準に、制度を利用するか慎重に判断してください。

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