不動産を売却することは、誰でも1度は体験する可能性があります。「家は一生に一度の買い物」だと思っていても、親から相続した住宅を売却する等のケースは誰にでも起こり得るのです。
いざという時のために慌てないためには、「不動産売却の流れの全体像を把握しておくこと」が大切になります。
今回は、「不動産売却の流れ」と「不動産売却で発生する税金」「利益が出た場合の節税方法」の3つにスポットをあてて紹介します。
不動産を売却する時の流れ
不動産投資家でもない限り、所有する住宅や土地を売却する経験は一生のうちに何度もするものではありません。
しかし、ふとした事がきっかけで売却を行うことになるかもしれません。そんな時に慌てないようにするためには、まず【不動産売却の流れ】を把握しておくことが大切です。
まずは、不動産を売却する流れを確認していきましょう。
1.相場を知って売却金額を想定する
不動産には、全く同じ価値のものは存在しません。同じ広さの土地や同じ見た目の建物であっても、方位や前面道路の状況、取引するタイミングの違いによって価値は大きく変わります。
不動産価格は立地や物件の特徴を理解した上で市場の動向を踏まえて検討する必要があります。
価値を把握する手法としては【取引事例比較法】を用いることが一般的です。売却する不動産と似たような取引事例を基に、不動産市場の動向による「時点修正」を踏まえて価格を決める方法です。
価格算定に当たっては、不動産会社等の専門家に依頼します。
2.不動産会社の査定を受ける
不動産の取引を目的として価値を評価することを【価格査定】といいます。取引事例比較法などの客観的な手法を用いて決定されます。
最初に、周辺の取引事例等を参考にした「簡易査定」が行われ、その後に実際の物件の状態やインフラの整備状況を加味した「詳細査定」を経て売り出し価格が決定されます。
この時、不動産会社に【査定価格の根拠】を聞き出すことを忘れてはいけません。査定価格があまりに高すぎる場合、市場価値と大きく乖離することで買い手がつかない場合もあるのです。
3.媒介契約を結ぶ
媒介契約とは、不動産業者に不動産売買の仲介を依頼する契約のことです。契約内容によって以下の3つに分類できます。
- 専属専任媒介契約
- 専任媒介契約
- 一般媒介契約
専属専任媒介契約では、1社のみに仲介を依頼することになります。他の不動産業者と重複しての契約はできません。自分で買い手を見つけてきた場合でも、不動産業者を通じて取引をしなければいけません。売主側が強く拘束される契約である一方、不動産業者側にも「5日以内の流通機構への登録」「週に1度以上の販売状況報告義務」等の強い法規制が適用されます。
専任媒介契約は1社のみと契約を交わすのは同じですが、自分が見つけた買い手とは不動産会社を通さずに契約できます。
一般媒介契約では、複数の不動産業者と契約が可能です。一方、不動産の売却状況について売主への報告義務がありません。
4.購入希望者と交渉する
購入希望者が見つかったら、不動産業者のサポートを受けながら売却条件を決定していきます。
決めるべき内容は「売却価格」「手付金の額」「引き渡し時期」「瑕疵担保責任の期限」等多岐に渡ります。
不動産業者から市場の動向や手続き上のアドバイスをもらいながらも、譲れない点は明確にしておくことが必要です。妥協してしまうと、長い期間に渡って後悔することになります。
5.売買契約・引き渡し
売買契約を締結させたあとは、売主側には【所有権の移転】【物件の引き渡し】という2つの義務が発生します。期日までに完了させないと違約金の支払い義務が発生する可能性もあるのです。
引き渡しまでに準備すべきこと
不動産の売買契約が締結したら、引き渡し期日までに各種手続きを終わらせておく必要があります。行うべき主な手続きは以下の4つです。
- 所有権移転登記
- 抵当権抹消登記
- 土地の実測・境界確認
- 現地確認
1.所有権移転登記
登記に関しては、専門家である司法書士か不動産業者に一任することが一般的です。提出を求められる書類を確実に用意できないと、期日までの所有権移転ができないため注意が必要です。
2.抵当権の抹消登記
物件に抵当権が設定されている場合、抵当権の抹消手続きを金融機関に相談することになります。
金融機関へのローンが残っている場合は、全額返済によって抵当権抹消の条件を整えなければなりません。
3.土地の実測・境界確認
土地や境界の実測は「土地家屋調査士」に依頼します。この時の注意点としては「隣地の所有者の立ち合いも求められる」という点です。
事前にスケジュールを調整して、決めた日に確実に実測ができるように手配をします。
4.現地確認
引き渡しまでの間で、売主と買主、不動産業者の3者で物件の確認を行います。物件の状態を買主に確認してもらい、後にトラブルにならないようにしましょう。
不動産の売却時にかかる税金
不動産売却の流れを掴めたら、税金についても理解しておくべきです。
通常、不動産を売却した時には【必ず納める税金】と【利益が出た時に納める税金】が発生します。物件の価格によっては払うべき税金が高額になる一方、特例などの税制を知っておくと節税につなげることが可能です。
1.登録免許税
不動産を売買するということは、不動産所有権の登記も変更になります。この際に必要になる手数料が「登録免許税」です。
本来であれば、売主と買主が連帯して支払うべきですが、中古不動産の売買においては「慣習的」に買主が支払うこととされています。
ただし、不動産に設定されている抵当権を抹消する時の【抵当権抹消登記】に関わる登録免許税は、売主側の負担です。
不動産一筆につき1,000円のため、土地と建物を売買する時は2,000円が必要になります。
2.印紙税
印紙税とは、一定の条件を満たす契約書や領収書に課せられる税金です。
金額は契約書に書かれた契約金額によって異なりますが、例としては「契約金額が1,000万円を超えて5,000万円以下なら印紙税は2万円」「契約金額が5,000万円を超えて1億円以下なら印紙税6万円」となります。
なお、印紙税が半額になる「印紙税の軽減措置」に関しては2020年3月末までの期間限定措置のため、注意が必要です。(2020年3月現在)
3.所得税・住民税
売却した不動産によって得た収入から、その不動産の取得費と売却経費を引いてなお利益が残った場合に限り徴収されるのが【所得税】【住民税】です。
税額計算上では「譲渡所得」に分類されます。
売却した年の1月1日付けで5年以上の期間に渡って所有していた場合は「長期譲渡所得」として、15%の税率になります。5年未満の「短期譲渡所得」の場合は30%です。
住民税は長期譲渡所得で5%、短期譲渡所得で9%になります。
譲渡して利益が出た場合の特例
本来であれば利益に対して20%(又は39%)の税金が課せられる譲渡所得税ですが、条件を満たした不動産の売却等であれば、特例による控除を受けることが可能です。
特例を上手に活用することで、納めるべき税金を減らして節税につなげる事ができます。
居住用財産の3,000万円の特別控除
被相続人が住んでいた住宅を相続人が売却した場合、最高で3,000万円を控除することが可能です。適用条件は以下の通りです。
- 被相続人が死亡する直前まで居住していたこと
- 昭和56年5月31日以前に建てられた建物であること
- 区分所有建物(マンション等)ではないこと
- 被相続人が亡くなるまで他に同居人がいなかったこと
なお、居住年数についての規定はありません。
軽減税率の特例
10年を超える長期に渡って居住していた期間に応じて、税率が変わる特例のことです。
具体的には、譲渡所得6,000万円までの税率が「所得税:10%」「住民税:4%」に減額されます。6,000万円を超える部分に関しては通常の長期譲渡所得と同じく「所得税:15%」「住民税:5%」になります。
また、軽減税率の特例は「3,000万円の特別控除」と併用が可能です。
特定居住用財産の買換え等の特例
こちらは自宅を買い換えた時に利用できる特例です。例えば通常であれば、5,000万円の取得費・経費がかかる住宅を7,000万円で売却した場合は差額の2,000万円について譲渡所得税が発生します。
もし買換えで7,000万円を超える金額の自宅を購入した場合、この特例を利用することで税金の支払いを次に買い換える時まで「繰り延べる」ことができます。
なお、買い換えた住宅が売却した住宅より安い場合は、売却価格と購入価格の差額が収入金額とみなされて課税されます。
この特例は、3,000万円の特別控除や軽減税率の特例を直近2年の間で利用していると使うことができません。また、「売却価格が1億円以下である事」「所有期間が10年超である事」「買換え先の床面積が50平方メートル以上である事」など細かい規定が存在します。
まとめ
今回は、「不動産売却の全体像」と「不動産売却に関わる税金」「利益が出た時に利用できる特例」の3つについて解説しました。
内容をまとめると以下の通りです。
- 不動産を売却する流れを理解しておくこと
- 書類に不備がないようにあらかじめ準備をしておくこと
- 売却にかかる税金には「登録免許税」と「印紙税」がある
- 利益が出た場合には「所得税」「住民税」「復興特別所得税」がかかる
- 各種特例を利用することで節税につながる
不動産売却で利益が出た場合は多額の税金を納める必要があります。特例の内容を理解しておけば、利益が出た時の節税に役立ちます。
不動産を売却することが決まった時には、最新の税制を確認するようにしましょう。
「売却前に要確認!不動産売却時の税金計算法とその節税法」