相続の法律

2020年の民法改正|今から知っておくべき相続手続きの変更点まとめ

2020年4月に、民法改正が施行されることをご存知ですか?

 

民法という法律が出来上がってから初めての抜本的な改正であり、我々の日常生活にも大きく影響する変更も少なくありません。

「そんな改正があったなんて知らなかった…」とならないように、改正点を正しく認識することが重要です。

 

今回は、相続に関わる民法の改正点について解説します。

 

そもそも『民法』とは

そもそも『民法』とはどのような法律なのでしょうか。

改正の話題に入る前に、民法とは何か、というところから始めていきましょう。

 

法律には『公法』と『私法』があります。公法とは憲法のように、国や自治体の権利・義務にかかわる法律のことです。私法とは民法のように、我々のような一般人(私人)同士の権利・義務に関わる法律です。

 

次に、「一般法」と「特別法」というくくりがあります。一般法は民法のように、文字通り広く一般的に適用される基本的な法律です。特別法は、特定の条件下で一般法に優先されて適用される法律です。

 

例えば、何かを売買する時に一般的に適用されるのが民法です。ただし、その一般人が商人同士だった場合、民法の特別法である『商法』が適用されます。

 

つまり民法とは、『私法』の中の『一般法』であると言えます。

 

2020年の改正は変更される規模が120年ぶり

現在の民法が制定されたのは、1894年のことです。そこから現代に至るまで、制度全体の抜本的な見直しは行われてきませんでした。

 

しかし、これだけの年月が経過すれば現代の慣習にそぐわない部分や不都合が表面化してきます。現行の民法では対応できない事態が増えたため、かねてから改正の声があがっていました。

 

そのため、120年ぶりに民法の抜本的な改正が行われることになりました。

 

改正項目は約200項目にも及び、我々の日常生活にも影響を及ぼす内容が多くなっています。このため、今回の改正を『平成の大改正』と呼ぶこともあります。

 

2020年の改正は相続に大きな影響あり!

平成の大改正で見直しをされた項目は200にものぼり、民法全体に及ぶものです。民法の中に含まれる相続法に関しても、40年ぶりの抜本的な改正が実施されます。

 

当ブログに関係が深い『相続法』に関する分野の変更点は以下の通りです。

  • 遺贈義務者の引き渡し義務
  • 配偶者居住権
  • 自筆証書遺言の保管規定

 

なお、自筆証書遺言についてはすでに、財産目録についてワープロソフトで作成が可能なように相続法の改正が行われています。今後はさらに、保管に関する規定が改正されます。

 

相続に関係する改正内容3つ

相続法とは、民法の第五編に規定されている法律のことです。今回は改正された民法の中でも、相続法に関する規定として「遺贈義務者の引き渡し義務」「配偶者居住権」「自筆証書遺言の保管規定」の3つを解説します。

 

1.遺贈義務者の引き渡し義務(施工日:2020年4月1日

こちらは、債権法の改正に追随するような格好で改正された部分です。

新たな民法551条(債権法)の規定として『贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。』と規定されています。

 

この債権法の規定に沿い、民法998条(相続法)も以下のように改正されました。

 

『遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。』

 

要するに、相続が始まった時の状態のまま対象物を引き渡せば、遺贈義務者の義務は果たしたことになります。

 

これまでの民法で言うと。不特定物の遺贈に瑕疵(欠陥)があった時は、瑕疵がないものをもって遺贈をしなければならないというルールでした。

 

改正された民法の方が、現代の遺贈の慣習に即したルールになっていますね。

 

2.配偶者居住権(施工日:2020年4月1日

この部分が、今回の相続法の改正の目玉です。

 

亡くなったAさんが残した財産が、自宅2,000万円、現金2,000万円だったと仮定しましょう。

 

妻のBさんは今住んでいる自宅を出ていきたくないと考えています。逆に息子のCさんはすでに持ち家があるため、お金だけもらえれば良いと考えました。

法定相続分の通りに分配するとなると、Bさんが自宅、Cさんが現金をそれぞれ相続することになります。

 

そうすると、妻のBさんは現金を全く相続できなくなり、生活ができなくなってしまいます。

そこで、今回の『配偶者居住権』です。

 

これによって、仮に配偶者が自宅を相続しなかったとしても、自宅に住み続けることが可能になります。

 

イメージとしては、所有権を『住む権利』と『それ以外』にわけ、住む権利だけは配偶者が確保できる、と思っていただければOKです。

 

今回の例でいえば、2,000万円の価値がある自宅を、『1,000万円の配偶者居住権』と『1,000万円のその他の権利』に分けることができます。

 

そのうえで、合計4,000万円の遺産を均等に分けるわけです。

Bさんは『1,000万円の配偶者居住権+1,000万円の現金』、Cさんは『1,000万円の配偶者居住権以外の権利+1,000万円の現金』という形で相続ができます。

 

3.自筆証書遺言の保管規定(施工日:2020年7月10日

最後に、自筆証書遺言の保管の規定が変わった件も紹介します。

 

これまで『自筆証書遺言』は各自で保管するようになっていました。そのため、相続の時になって紛失してしまうケースが多くありました。また、不利な遺言を書かれた人が意図的に破棄してしまう問題もあります。

 

今回の改正では、自筆証書遺言も法務局で保管をすることができるようになりました。

 

今回の改正により、紛失したり改ざん・破棄される心配が無くなるほか、家庭裁判所での検認(遺言の様式のチェック)の手続きが不要になります。

 

依然として書き間違いや様式違いによって無効になってしまう心配はあるものの、誰でも遺言を遺しやすい環境に変わってきていると言えます。

 

まとめ

今回は、民法とは何かという基本から、相続分野における2020年の主な改正点を解説しました。

 

内容をまとめると以下の通りです。

  • 遺贈義務者の引き渡し義務
  • 配偶者居住権
  • 自筆証書遺言の保管規定

120年前にできた法律が、現代の生活様式に沿う形で便利な方向に改正されていることが特徴です。

 

新しい民法についての正しい知識を身につけて、ご自身の相続や日常生活に活かしてください。

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