相続の手続き

生前贈与によって遺留分が侵害されたら遺留分侵害額請求権を行使できる?(2)

今回は遺留分についての前回の記事の続きになります。

本記事では、特別受益や遺留分の計算方法について解説していきたいと思います。

遺留分に加える特別受益は10年以内のものに限定

特別受益については、民法改正(2019年7月1日施行)により、相続開始時から10年以内のものに限定されるようになりました。

民法改正前は、相続人に対する贈与が特別受益にあたる場合、時間を問わず全ての贈与を遺留分算定の基礎となる財産価額に参入するというのが判例の立場でした。(最高裁判所平成10年3月24日判決)
しかし、何十年も前に行った生前贈与を遺留分の対象とするのは妥当ではありません。

そこで、民法改正により遺留分の算定における生前贈与の範囲について規定されることとなり、相続開始前10年間にされた特別受益にあたる贈与のみを遺留分として算定することとなりました。

遺留分の計算方法

遺留分の割合がいくらになるかは、相続人が誰になるかで異なります。

相続人の優先順位や相続する遺産の割合については、法律で定められており、これを法定相続分といいます。
被相続人(亡くなった方)の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の相続人は次の順位に従って相続することになります。
まず優先される第1順位は、被相続人の実子や養子です。
次いで第2順位が、被相続人の両親や祖父母などの目上の直系血縁者(直系尊属)、第3順位が被相続人の兄弟姉妹です。

法定相続分の割合

法定相続分は、相続人の組み合わせによって、以下の割合で分配されます。

  1. 配偶者と子どもの場合
    配偶者1/2、子ども1/2
  2. 配偶者と直系尊属の場合
    配偶者2/3、直系尊属1/3
  3. 配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合
    配偶者3/4、兄弟姉妹1/4
  4. 相続人が配偶者だけ、子どもだけ、直系尊属だけ、兄弟姉妹だけの場合
    配偶者だけ、それぞれの順位の相続人だけの場合は、すべてを相続することになります

配偶者となるのは1名のみですが、子ども・直系尊属・兄弟姉妹という関係性の相続人は複数人いることがあります。
その場合は、さらにその人数分で割った割合分が各人の法定相続分となります。

遺留分の割合

求めた法定相続分が、元々相続できる予定だった遺産の割合分ということになりますが、遺留分はこれのさらに半分となります。

つまり、法定相続分の1/2が遺留分ということになります。
ですが直系尊属のみが相続人となる場合、遺留分は1/3になり、兄弟姉妹には法定相続分はありますが遺留分は認められておらず、どのような相続の組み合わせになったとしても遺留分はゼロです。

法定相続人が請求できる遺留分の割合は下記のようになります。

  1. 配偶者と子どもの場合
    配偶者1/4、子ども1/4
  2. 配偶者と直系尊属の場合
    配偶者2/6、直系尊属1/6
  3. 配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合
    配偶者のみが1/2
    兄弟姉妹はゼロ
  4. 相続人が配偶者だけ、子どもだけ、直系尊属だけ、兄弟姉妹だけの場合
    配偶者だけ、子どもだけの場合は1/2
    直系尊属だけの場合は1/3
    兄弟姉妹だけの場合はゼロ

法定相続分の場合と同じく、子ども、直系尊属が複数人いる場合は、さらに等分したものが遺留分割合となります。

遺留分の計算の参考例

たとえば、被相続人に子どもが3人いたといましょう。
しかし、被相続人は遺言により全財産の6,000万円を法定相続人ではない内縁の妻に遺したとします。

本来であれば、被相続人の子どもは3人ですから1人2,000万円ずつ相続することができます。
しかし全ての財産を内縁の妻に遺贈されていますから、実際に相続できる財産はゼロということになります。
このような場合でも遺留分として、子ども3人分で財産の1/2である3,000万円の取得が法律上保障されています。
子ども1人当たりでは、各1,000万円です。

なお通常の相続の場合、子ども3人の内の1人が相続放棄した場合、その相続分は残りの2人に加算されます。
参考例の相続で遺言書がなかった場合、6,000万円の財産を残りの2人で相続しますから、一人当たり3,000万円の相続ということになります。

しかし、遺留分の計算では、遺留分権利者の内の1人が遺留分を放棄したからといって、他の遺留分権利者の遺留分が増えるということはありません。
遺留分権利者が子ども3人で、遺留分が1人当たり1,000万円となる場合、子どもの1人が遺留分を放棄しても、残りの子ども2人の遺留分は増えず、1人当たり1,000万円のままです。

まとめ

今回は特別受益や遺留分の計算方法について解説いたしました。

次回は遺留分侵害額請求を行う流れについての記事になる予定です。

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