前回の振り返り
被相続人が遺言書を残さず、また遺産分割協議前で預金を払戻すためにどのような手続きが必要か紹介しました。
金融機関は、戸籍の情報を提出してもらうことで、すべての法定相続人を確定することができます。
その上で、金融機関は全相続人の依頼によって相続人代表者へ預金を払戻されます。
今回は、被相続人が遺言書をした場合に預金を払戻すためにどうすれば良いか、説明していきます。
なお、金融機関はそれぞれその組織内部のルールに基づいて対応を行います。
より詳細には取引のある金融機関にお問い合わせください。
遺言執行者が払戻す
預金を払戻すには、相続手続依頼書へ署名と捺印をします。
遺言書があるとき、ここに署名と捺印をするのは遺言執行者のみです。
遺言書もなく、遺産分割協議前のときはここは法定相続人全員が記入しなければなりませんでした。
その他、確認資料として遺言書のほか、家庭裁判所で遺言執行者が選任された場合はその審判書の写しが必要です。
遺言書であらかじめ指定されていた遺言執行者が就任した場合は必要ありません。
その他、遺言者について相続開始の事実と、受領者の血縁関係が分かる範囲の戸籍の情報も必要です。
遺言が残されたときの預金の払戻し手続きを考えてみます。
このとき、どんな遺言が対象になるでしょうか。
よく使われる文言として、以下のようなものがあります。
「XX銀行の預金債権を、相続人YYへ相続させる」との趣旨の表現です。
このような遺言を「相続させる遺言」といいます。
遺言執行者は預金の払戻しができるか
これはどのような効力があるのでしょうか。
「遺贈であることが明らかでない限り、当該遺産を、当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定された」
との効力があるとされます(最判平成3・4・19金判871号3頁)。
ここから、預金債権についてそのような遺言では、遺言執行者に執行余地があるかどうかが問題となります。
つまり、遺言執行者を相手方として払戻しに応じてもいいかが問題となります。
この点下級審では判断が分かれ、執行の余地あり、執行の余地なし、どちらの考え方も判示されています。
つまり、遺言執行者として選任されていたとしても、遺言執行の余地なしと判断される可能性もあるのです。
そのような事案では、まず、受益相続人を相手に預金払戻しに応じるという立場あります。
また、預金払戻手続について受益相続人から遺言執行者がその仕事を受任したとしての立場をとるという立場があります。
後者の場合は受益相続人から遺言執行者に対する委任状の発行か、相続手続依頼書への両者連署が必要になります。
まとめ
遺言書による預金の払戻しは、遺言執行者が行います。
そのとき、遺言執行者が単独でできるかは、残された遺言が相続させる遺言であるかで判断が必要です。
裁判所が統一した見解がないので、それぞれ対応は金融機関のルールによります。
詳しくは取引銀行にお問い合わせください。