被相続人が亡くなったとき、相続人となる方は基本的に法定相続分の財産を相続することになります。
ですが、被相続人が遺言によって他の人に遺贈した場合や、生前贈与によって亡くなった時にはほとんど財産が残っていないという場合があります。
そのような場合でも、相続人(法定相続人)が本来得られるはずだった遺産を取り戻すことができる方法があります。
その方法とは、遺留分侵害額請求です。
この遺留分侵害額請求によって取り戻せる財産はどのくらいなのか、また対象となる財産には何が含まれるのかについては法律で規定されています。
そこで今回から3回に分けて遺留分について解説していきます。
本記事では、遺留分侵害額請求権の概要と遺留分侵害額請求権を行使できる法定相続人についてご説明いたします。
遺留分侵害額請求権とは
遺留分侵害額請求権とは、いったいどのような権利なのでしょうか。
そもそも遺留分とは、一定の相続人(法定相続人)が被相続人の財産から法律上保障されている最低限の取り分のことです。
この遺留分は、被相続人が遺言で相続を指定したり、他の人に遺贈したりしても奪われることはありません。
法律では、遺留分の権利を持つ一定の相続人のことを遺留分権利者と呼びます。
遺留分権利者以外の者が、被相続人から遺贈を受けたり、生前贈与を受けたりした場合、遺留分権利者は本来受け取れるはずだった財産を受け取ることができません。
このような場合、遺留分権利者は受遺者や受贈者に対して、本来受け取れるはずだった財産の遺留分を侵害されたとして、その遺留分侵害額に相当する額を金銭によって支払うことを請求できます。
このような権利のことを、遺留分侵害額請求権といいます。
遺留分侵害額請求権を行使できる法定相続人
遺留分侵害額請求権を行使できる一定の相続人のことを遺留分権利者と呼びますが、「一定の相続人」とはどのような相続人でしょうか。
遺留分権利者となるのは、すべての法定相続人というわけではありません。
被相続人と以下のような関係にある相続人が遺留分権利者となります。
- 配偶者
- 子(代襲者、再代襲者を含む)
- 直系尊属(被相続人の父母、祖父母など)
ただし子が相続人となる場合、直系尊属は法定相続人にも遺留分権利者にもなりません。
被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者は、法定相続人となるケースはありますが、どのようなケースでも遺留分権利者となることはありませんので、ご注意ください。
遺留分の対象となる財産には生前贈与も含まれる
遺留分の基本は、「被相続人が死亡した時(相続の開始があった時)に有していた財産」の価額です。
これに生前贈与した財産価額を加え、被相続人の債務(借金等)を全額控除して算定します。
この時、遺留分の算定の基礎となる財産価額に加算される生前贈与には規定があります。
- 被相続人が生前贈与した財産がある場合、遺留分侵害額請求の対象となるのは、被相続人の相続開始前1年間に贈与されたものに限られます。(改正民法1044条1項)
- 被相続人の相続開始前1年間に贈与された財産以外であっても、贈与者である被相続人、贈与された受贈者が共に遺留分権利者の遺留分を侵害することを知って贈与したときは、この贈与された財産も遺留分侵害額請求の対象となります。(改正民法1044条1項後段)
- 被相続人と受贈者によって不相当な対価による有償行為が行われた場合、不当な対価で有償処分した財産自体の価額から対価額を控除した額が遺留分侵害額請求の対象となります。(改正民法1045条1項)
- 受贈者が相続人であり、受けた贈与が特別受益にあたる場合、特別受益となる財産は原則として遺留分侵害額請求の対象となります。(改正民法1044条3項)
これら4つの生前贈与について、それぞれ詳しく説明しましょう。
(1)相続開始前1年間の贈与
通常の場合、相続は被相続人の死亡時に開始されます。
ですから、相続開始前1年間とは、被相続人が亡くなる前の1年間を指します。
この贈与は、受贈者が法定相続人かどうかは関係ありません。
例えば、被相続人の内縁の妻が贈与を受けた場合も、これに該当します。
(2)遺留分侵害を知ってした贈与
相続開始の1年以上前に行われた贈与は、基本的に遺留分の対象となりません。
ですが、被相続人と受贈者が遺留分権利者の遺留分を侵害することを知って行った贈与に関しては遺留分の対象となります。
この際、被相続人と受贈者に遺留分権利者に損害を与えてやろうという意思があったかどうかは問題ではありません。
また、遺留分権者の遺留分を侵害することを知っていたかどうかの証明は、遺留分権利者側が行わなければなりません。
証明方法については、専門家である弁護士に相談することが望ましいですが、以下のような点から「知っていたかどうか」を判断されることになります。
- 贈与があった時の被相続人の全財産に占める贈与した財産の割合
- 贈与があった時の被相続人の年齢や健康状態
- 贈与した後に、被相続人の財産が再び増える可能性があるか
(3)不相当な対価による有償行為
「不相当な対価による有償行為」とは、タダで財産を譲り渡す贈与と違って、きちんと対価は支払っているものの、その対価が財産の本来の価値と比較して不相当に低い場合のことをいいます。
たとえば、被相続人が所有する土地が実勢価格で5,000万円だったとします。
この土地を、500万円で売ってもらったという場合、不相当な対価による有償行為とみなされる可能性があります。
不相当な対価による有償行為とみなされた場合は、差額4,500万円の贈与を受けたものとみなされ、これに相当する金銭が遺留分侵害額請求の対象となります。
(4)特別受益にあたる贈与
被相続人から、相続人となる人が特別受益にあたる贈与を受けていた場合、その贈与は遺留分の対象となる財産に含まれます。
相続人の中に被相続人から多額の生前贈与を受けた人がいた場合、他の相続人から見れば不公平な贈与です。
その相続人が贈与等によって受けた利益のことを特別受益といいます。
特別受益とは、すべての贈与に当てはまるということではありません。
遺留分算定の基礎となる財産に加算される対象となる贈与価額は、「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る」と規定されています。
まとめ
今回は遺留分侵害額請求権の概要と、遺留分侵害額請求権を行使できる法定相続人について解説いたしました。
次回は特別受益や遺留分の計算方法、遺留分侵害額請求を行う流れについての記事になる予定です。