今回は遺留分についての前々回・前回の記事の続きになります。
本記事では、遺留分侵害額請求を行う流れについて解説していきたいと思います。
遺留分侵害額請求を行う流れ
遺留分侵害額請求には、決まった方法や手続きがあるわけではありません。
また遺留分侵害額請求権は、相手側へ意思表示するだけで効果が発生するという権利です。
つまり遺留分を侵害している相手方へ請求の意思を通知して、話し合いによって遺留分侵害額を請求することができるということです。
しかし相手側との交渉がまとまらない場合や相手が請求に応じない場合は、裁判所を利用して調停や訴訟を行うしかありません。
ここでは、費用や手間を考えて簡単な請求方法から順に行った場合の流れを説明していきましょう。
途中で決着したときは、そこで終了となります。
相続人の範囲、財産、遺言書の確定
まず、相続人の範囲、被相続人の相続財産、遺言書の内容と有効性等を調査して確定させる必要があります。
特に遺留分に関しては、被相続人の遺言書の有効性と内容が重要です。
また誰が遺留分を侵害しているのか確認して、遺留分侵害額請求を行う相手を確定させます。
内容証明郵便で請求権を行使する
遺留分侵害額請求権を行使するためには、遺留分侵害額請求を行うという意思表示を相手方に示さなければなりません。
このときの意思表示方法はどんな方法でも構わないのですが、口頭で伝えただけでは証拠が残りませんので、確実に相手方へ遺留分侵害額請求したという証拠が残る請求方法が望ましいでしょう。
そのためには、郵便局の内容証明郵便を使って請求することをおすすめします。
内容証明郵便とは、日本郵便の文書内容を証明するというサービスです。
差出人、郵便局、相手方の三者に全く同じ内容の文書が残りますから、相手方へ遺留分侵害額請求したという証拠を残すことができます。
遺留分侵害額請求権には時効がありますので、時効の進行を確実に止めるために配達証明付きの内容証明郵便を送付しましょう。
なお遺留分侵害額請求権の時効には下記2点のようなケースがあります。
- 相続の開始及び遺留分を侵害する生前贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効により消滅します。
- 相続の開始から10年経過した場合、遺留分侵害額請求権は消滅します。
遺贈や贈与を受けた人側で考えると、長期間何も請求されていないのに、いつまでも請求権だけが残ってしまうと困ります。
ですから、遺留分権利者が相続の開始があったことを知らない場合でも10年経過したときは時効により消滅します。
請求相手と協議を行う
全く知らない方が受遺者や受贈者となっている場合もありますが、基本的には家族や親族間の問題です。
ですから、内容証明郵便を送付した後も、いきなり調停に進むのではなく、相手方と協議によって解決することが望ましいでしょう。
この協議によって遺留分侵害額請求に関して双方が合意に達した場合は、ここで終了となります。
このとき、争いが再燃してしまうことがないように合意書を作成するようにしましょう。
協議により合意に達したとしても、その後遺留分侵害額の請求に対する支払いがないとか、支払いが遅滞するようなことがないよう、合意内容を明記した合意書を作成します。
なお、合意書は公証役場にて公正証書にしておくことをおすすめします。
公正証書になっていれば、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いが行われない場合に強制執行をすることができます。
公正証書ではない合意書の場合は、強制執行まで行うことができません。
合意書作成にあたっては、公証役場の公証人や弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
裁判所への調停申立て
相手方との協議が調わない場合は、裁判所への調停申立てを検討します。
調停とは、裁判官と調停委員で構成される調停委員会が仲介し、申立人と相手方の個別の話し合いによって合意を目指すものです。
遺留分侵害額請求に関する調停は、遺留分を請求する相手方の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てなければなりません。
ただし当事者が申立てる家庭裁判所を合意で定めた場合は、そちらに申立てても問題ありません。
調停では、裁判所が選任した調停委員が中心となって話し合いを進めていきます。
調停は家庭裁判所内の調停室で行われますが、基本的に申立人と相手方は交互に調停室に入りますので、お互いが顔を合わせることはありません。
調停は、相手方と合意に達するまで続けられ、合意に達した場合は調停調書が作成され終結します。
調停調書には裁判の判決と同じ効力がありますので、内容に従わず支払いが行われないような場合、すぐに強制執行ができるという効果があります。
裁判所への訴訟提起
調停で決着しないという場合は裁判所へ訴訟を提起するしかありません。
訴状の提出先は、請求額が140万円を超えるときは地方裁判所、140万円以下のときは簡易裁判所となります。
裁判となった場合は、個人では対応することが難しいので弁護士への相談をご検討ください。
まとめ
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)が被相続人の財産から法律上保障されている最低限の取り分のことです。
基本的に遺留分の基礎となる財産は、被相続人が相続開始時に有していた財産ですが、生前贈与があった場合は、これに加算されることがあります。
加算される生前贈与は、以下のような贈与額です。
- 相続開始前1年間の贈与
- 遺留分侵害を知ってした贈与
- 不相当な対価による有償行為
- 特別受益にあたる贈与(相続開始前10年以内)
遺留分侵害額請求を行う際には、上記のような生前贈与を含めた遺留分を請求することができますので、ご考慮ください。