前回は、資産家であっても納税資金に困るという事例を紹介しました。
この事例のAさんは、地主です。
金融資産より、不動産の割合が多い、というケースは珍しいことではありません。
相続対策 3本柱
前回も少し触れましたが、以下の3本柱について、バランスよく対策を講じていくことが大切になります。
①遺産分割対策
②相続税納税資金の確保
③相続税の負担軽減
この事例では、②の納税資金対策がおざなりになったケースでした。
また、Aさんのような地主は、融資残高を増やしたい銀行など、金融機関にとっては提案のしやすい属性の一つです。
相続対策と称して、積極的に賃貸物件の建築を推奨しています。
その結果、保有土地のすべてに何らかの賃貸物件が建っている状態の地主も多いのです。
しかし、賃貸物件の建築によって相続税が半減したとしても、ゼロにはできません。
そのため、納税資金を用意しなければならないという現実と向き合う必要があったのです。
節税に前のめりになる背景
Aさんの先祖は先祖代々農業を営んでいました。
しかし、Aさんの時代になって、保有する田畑一帯の宅地化が急速に進みました。
それに伴い農業は副業となり、不動産賃貸が主になってきました。
そのような背景の中、Aさんは定年退職後、実家の財産管理に従事してきたのです。
資産の大半が不動産であり、金融資産が少ないというのもこの背景によるものです。
そのような資産構成の偏りが、対策を③の相続税の負担軽減に偏重させたのです。
先祖代々の地主であるAさんにとって、土地は豊かさの源泉であり、キャッシュフローを生み出すものです。
そのため、土地を売却して納税資金を準備する、ということは何より避けたかったことです。
また、Aさんの考え方から、賃貸物件を建築して月々の家賃収入を得るほうがスムーズに受け入れられたのではないでしょうか。
そしてそのことは、地主に対して提案する銀行などの金融機関にとっても好都合です。
今回のまとめ
「資産はあるがお金がない」という状況はどうして起こり得るのかについて説明しました。
資産を得てきた過程というのも影響しています。
土地とともに豊かになったAさんは、その土地を手放して対策をすることに抵抗がありました。
土地に賃貸物件を建築して家賃収入を得る方が性に合っていることはいうまでもありません。
そして、そのことはAさんに融資をして融資残高を増やしたいという銀行の思惑とも一致します。
次回は、賃貸物件が相続対策になる背景を説明します。