普段発生確率は低くても、実際にその局面に遭遇すると困ることをとりあげています。
発生確率が低いということは、慣れていないのでそれだけで大変です。
一部の相続人の利益
残された相続人が、その生計費を被相続人に頼っていた場合を考えます。
相続開始後に相続人から預金の一部払戻しをすることが想定されます。
その相続人にとっては切迫している事態です。
葬儀費用や、被相続人の入院費用の類は、共同相続人に共通の債務と考える余地があります。
しかし、生活費については、特定の相続人のみの利益に直結するのです。
ある相続人が生活のために必要なもののための出費をしても、他の相続人にとってはその利益を享受することはありません。
被相続人に頼らず生計を立てていた相続人にとって、生活費を支出する蓄えをしておくのは当然なのです。
金融機関の立場に立つと?
こういうケースについても、前回紹介した判例変更の影響があります。
つまり、相続預金は法定分割承継が否定されたことにより、金融機関の対応が変化するのです。
全相続人による遺産分割協議の成立であったり、全相続人の同意による依頼のよる場合以外では原則応じることができないのです。
その上、生活費は特定の相続人のみの利益となります。
そのため、一部の相続人の払戻し請求に応じることは、葬儀費用の場合と比較すると、金融機関のリスクはより高くなります。
どのようにすれば払い戻せるか
平成28年の判例変更について、一部の裁判官による補足意見がありました。
急迫事情による預金債権の一部払戻しの場合、仮処分の利用が考えられる、とのことです。
「遺産分割審判事件を本案とする保全処分としての仮分割の仮処分の利用」です。
しかしながら、この制度は現状利用が少ないのが現実です。
これにより、仮処分が裁判所に受け入れられるかどうかは未定なので、確実な手段ではありません。
また、葬儀費用については、金額について争われる場合があるほか、最終的な費用負担を誰かについて争いがあるところです。
このため、仮処分の対象としてはなじまない、ともされているので、利用する場合には法テラスなどで相談するのが良いでしょう。
今回のまとめ
生活費にあてるために預金を払い戻したいときの状況について説明しました。
葬儀費用の場合と比較しても、格段に金融機関のリスクは跳ね上がります。
確実とはいえないまでも、仮処分という手段があります。
活用できるか、相談してみることが大切です。